中部電力ミライズ株式会社(旧:中部電力株式会社)
中部電力ミライズが進める顧客接点の進化──ADDIXとのワンチームによるデータ起点の新たな価値創出
2025.03.14
生活する上で欠かすことのできない電気・ガスを提供してきた総合エネルギーサービス企業の中部電力(現中部電力ミライズ)。無形であるエネルギーを扱ってきたため、顧客との直接的な接点やコミュニケーションが希薄で、電力自由化を背景にした新たな課題を抱えていました。その課題解決として、エネルギー供給を超えた付加価値を提供する会員限定のサービス企画に取り組むのが、中部電力ミライズコネクト株式会社の杉本拓氏が所属するマーケティングチーム。中部電力ミライズの会員向けプラットフォーム「カテエネ」内に、ポイント進呈を通じて会員に付加価値を提供するコンテンツサービス「みんなの得トクひろば」を開設しました。そして、同サービスの立ち上げから収益化まで一気通貫にて支援するのが株式会社ADDIXの水口健氏です。長期的かつ多岐にわたるプロジェクトについて、両者の対談をお伝えします。
「電力の自由化」による“スイッチング”の危機
ADDIXとしては、2016年から「みんなの得トクひろば」の立ち上げを起点に、中部電力ミライズの会員向けプラットフォーム「カテエネ」全体の分析まで幅広くお取引をさせていただいています。まず、中部電力ミライズ様、中部電力ミライズコネクト様についてと、杉本様のご担当業務についてご紹介をいただいてよろしいでしょうか。
2020年、電気事業法の改正に伴い、中部電力の小売事業を担う事業会社として分社化したのが中部電力ミライズです。さらに翌2021年、コミュニティーサポートインフラの実現を目指し、暮らし全般のサービスを提供する会社として中部電力ミライズコネクトが設立されました。中部電力グループの新たな収益の柱として、見守りサービスや子育て支援、食や健康などの暮らしに関わる新サービスの開発と提供に加え、家庭領域におけるマーケティング事業を展開しています。
私は中部電力ミライズから中部電力ミライズコネクトに出向し、カテエネの運用や、電気・ガスの新規契約獲得を目的としたキャンペーンの企画運用を担当しています。カテエネとは、電気・ガスをご契約いただいているお客様に対し提供しているWeb会員サービスです。ご家庭の毎月の料金やご使用量を簡単にご確認いただけるほか、カテエネポイントを貯めたり、省エネアドバイスなど暮らしに役立つコンテンツを掲載したりしています。また、最近では「家族のじかん応援プロジェクト」として、家族のじかんを一層大切に過ごしていただける様々なアイデアをカテエネサイト内でご提案しています。おかげさまで2020年と比較すると、会員数は約150%、毎月の利用者は約210%と伸長し続けています。
カテエネの中で「みんなの得トクひろば(以下、得トクひろば)」は、お客様の満足度向上による電気契約のリテンションを目的に設けられたコンテンツサービスです。ユーザーには話題の商品や体験チケットが当たったり、ポイントが獲得できたりするメリットがあります。ADDIXさんには、得トクひろばのサービス立ち上げから収益化まで、一気通貫でご支援いただいています。

中部電力ミライズコネクト株式会社 マーケティング本部 マーケティング部 課長(コミュニケーション統括) 杉本拓氏
ADDIXが支援させていただくようになったきっかけは、2016年4月の電力の自由化ですよね。
そうですね。電力の小売事業が全面的に自由化され、好きな会社から電気を購入できるようになりました。当時、お客様が自分のライフスタイルに合った電力会社を選ぶ時代が迫っていたのです。さらに2017年にはガスの小売事業の自由化も控えており、中部電力全体でこれまで以上にお客様に向き合ったサービスを生み出し、ご提供していく重要性が高まっていました。
そこで私たちは、安心・安全なエネルギーサービスのご提供に加えて、付加価値の高い会員限定のサービスを企画し、その後設計が煮詰まってきた段階で、ADDIXさんにご相談したという経緯になります。
電気・ガスは誰もが生活する上で欠かすことのできないものではありますが、無形の商品でもあります。中部電力ミライズをはじめとする既存の電力会社とお客様の直接的な接点やコミュニケーションは希薄な状況にありました。そのため、新電力の出現によって容易に“スイッチング(切り替え)”が引き起こされるリスクが大きな課題であることを伺いました。
その解決のために、既存顧客を複数のデモグラフィックに分類し、初期仮説の裏付けを検証。お客様アンケートの中でニーズが多かった「ポイント」をもとにした企画の実証を経て、サービス実装の内容を決定しました。サービス立案に約2ヵ月、サービス開発に約3ヵ月を要し、2016年3月に公開したのが得トクひろばです。

株式会社ADDIX ソリューション事業部 ビジネスプロデュースユニット シニアマネージャー 水口健氏
サービスの立ち上げから全体分析・グロースまでADDIXが併走した結果
私自身は2020年に、カテエネおよび、得トクひろばの運営担当になりました。担当になった際、カテエネ会員数のKPIはありましたが、カテエネが会社全体にどのくらい貢献しているかについて、また将来的な成長戦略に向けた具体的な定量化は求められていませんでした。ただ、お客様の契約が離れていくことを抑止するリテンション効果が、カテエネにはあることを実感していました。
転換点となったのは、2022年4月分からの検針票のペーパーレス化と、それに向けたスケジュールが決まったことです。お客様によるカテエネの主な利用法は、電気・ガスの使用量や料金を確認することです。紙の検針票がなくなることで、カテエネの果たす責任がますます重くなることが予想されました。会員数の増加はもちろん、その利用内容も問われる状況で、私たちはサイト登録や料金・使用量確認などの導線の見直し・改修を繰り返すと同時に、社内で注目される機会が増えたカテエネのリテンション効果についても定量的に説明する必要がありました。これらのプロセスについてもADDIXさんにご尽力いただいています。
杉本様は増加するユーザーをどう定着させるか、利用し続けてもらうか、より頻繁にサイトに来てもらえるかというところに重点を置いて、カテエネ全体のKPIを整理されていました。その中でADDIXは、得トクひろばのコンテンツとしての位置付けを明確にしたり、カテエネの施策と連携した企画のご提案をしたりしながら、カテエネの会員数、利用率を増やしていく取り組みをさせていただいてきました。
その結果、当初の見込みより大幅に成長していて、この2年間でカテエネの会員数は約1.5倍まで増加しています。実は、ADDIXさんへのご依頼は、得トクひろばのコンテンツ運営や提携先との交渉の委託にとどまらず、カテエネ全体の分析まで及んでいます。ADDIXさんとの協働で現在は、カテエネの利用実績を可視化し、課題を明確にすることをルーティン化し、問題点を改修するPDCAをスピーディーに回すことができるようになっています。
なぜカテエネ全体の分析までお願いするようになったかというと、毎月、得トクひろばの利用データを分析・報告いただく中で、得トクひろばは、NPSスコア(顧客推奨度)において推奨者の利用率が高く、リテンションに貢献しているというデータが出ていたからです。この結果は、ADDIXさんが得トクひろばのコンテンツ運用におけるPDCAを回す体制を構築した上で、常にカテエネ全体の状況を見える化し、リテンション向上に寄与する方策を考え、実行しているからだと認識しています。カテエネのことを、私たちよりも深く理解してくださっていますよね。
ありがとうございます。得トクひろばは、カテエネというサイト全体の縮図だと捉えています。得トクひろばの課題はカテエネ全体の課題に通じているため、分断するのではなく一緒に考えていくことを常に意識してきました。たとえADDIXが関わらない領域であっても、サイトの指標に影響することについてはお伝えさせていただいています。
今後は、得トクひろばのリテンション効果をサイト全体と連動させ、電気・ガスの料金や使用量の確認にとどまらない、カテエネの利用価値を追求していきたいですね。また、カテエネの実績をNPSスコアで可視化し、会社への貢献度を数値化できるよう、ADDIXさんと一緒に引き続き取り組んでいきたいと思います。

多岐にわたるプロジェクトで築いた“ワンチーム”の関係
現在、得トクひろばの運用とカテエネ全体の分析とを包含する視点で長期的にご支援させていただくようになっています。それによって新たな気づきなどはありましたか。
カテエネ全体からの視点でも見ていただくことで、「電気・ガスの料金や使用量を見られさえすればいい」というメインの利用法に加え、回遊するページの中でリテンション効果やNPSスコアが高いものとして、お客様のポイント活用ニーズを軸にした得トクひろばの重要性がわかってきました。ADDIXさんには、電気・ガス料金確認というメイン導線からいかに得トクひろばに目を向けてもらうかについても導線を変えたり増やしたりと、調整いただいています。一般的なECサイトであれば、商品を買ってくれた分に応じてポイントを進呈するというサイクルが可能です。しかし、電気・ガスは貴重なエネルギー資源であるため、たくさん使ってくださいとは言えないジレンマがあります。そこでポイントを貯めやすくするために、得トクひろばに貢献してもらっていますね。
また、外部企業との交渉や調整についても、ADDIXさんにご担当いただいています。十分なポイントを提供するためには外部企業との連携が不可欠なので、非常に助かっています。ADDIXさんからは毎月いろんな示唆をもらっています。
中部電力は電力自由化に至るまで、ビジネスモデルとしてシェア100%の状況でした。電力自由化となった今、マーケティングの主眼は、顧客に末永く契約し続けていただくこと。そのうえで、エネルギーサービスしか利用してこなかったお客様にアップセルやクロスセルを促すことです。中部電力ミライズコネクト様が手がけるカテエネのようなオウンドメディアや、リテンション効果の高い得トクひろばの担う役割は、中部電力グループ全体において極めて大きいと感じています。

そのため、私たちに1つのことを質問されたときには、それが杉本さんの10の業務やカテエネ、中部電力ミライズ全体にどのように関わるかを考えてコミュニケーションすることを心がけています。
ADDIXさんとワンチームでお取り組みさせていただく中で、メンバーの方々の真摯さを実感しています。私たちは、地域に根ざした会社を目指しながら、お客様の暮らしに関わる新サービスの開発・提供もミッションとなるため、この領域においても協働できればと考えています。
「地域に根ざした会社」を実現するデータドリブンのワンストップ支援
先ほど、「地域に根ざした会社を目指す」というお話がありました。得トクひろばは立ち上げから6年が経ったため、あらためてUXやUIについて見直すべきところは見直して、お客様にとってより使いやすいものへブラッシュアップしたいと考えています。完成度を高めたWebサービスをエリアフリーで横展開することで、新たな収益基盤を作ることにもチャレンジできるかもしれません。他社を巻き込むことによって、収益基盤をシェア、拡大していくのはADDIXの得意とする領域ですから。
その視点には大きなインスピレーションを受けています。また、得トクひろばの施策で得られる顧客の購入データなどを活用して、どこにマーケットがあるかを探るような施策にも関心があります。
そうですね。得トクひろば自体にも、毎月数万人もの優良な閲覧者データが蓄積されています。それらのデータと、中部電力ミライズ様が既にお持ちのデータを掛け合わせることによる施策も展開できるでしょう。ADDIXは顧客リテンションを軸に、カテエネおよび得トクひろばでご一緒させていただきながら、中部電力ミライズ様として新たに収益を上げていく領域の下支えになるご提案をしていきます。
最後に杉本様の今後の展開や、その中でADDIXに期待していることを教えていただけますでしょうか。
今後は、カテエネをご利用いただいている会員様により魅力的なコンテンツを提供し、カテエネライフを楽しんでいただきたいですね。そのためには現状把握、課題整理、アクション、チャレンジをスピーディーに回していきたいです。
ADDIXさんに期待することは、利用者数を増やし、盛り上げることはもちろんですが、お客様の行動変容を察知し、得トクひろばをカテエネ全体の牽引役となるコンテンツとして成長させていただくことです。
また、省エネに向けた行動変容を起こすきっかけ作りにも協力していただきたいと思っています。現在は既存顧客を中心にしたリテンションがメインですが、お客様の中には、毎月の電気・ガス料金をクレジットカードの引き落とし額でしかチェックしない方も多くいらっしゃいます。そういったお客様をカテエネに誘導し、たとえば固定費を見直すキャンペーンをご案内することで、顧客体験を向上させつつ、リテンションにつなげることも構想しています。
ADDIXは、データ(顧客を理解する根源)とCX(カスタマー・エクスペリエンス 顧客体験価値向上)を起点に、データドリブンで企画から運用までワンストップでサービス提供できることを強みとしています。その中で、顧客ナーチャリングや、新しい領域で消費者とコミュニケーションを取る場合に、どういう顧客接点で、どういうメッセージを発信して、どういう仕組みで回していくかという経験も培っているため引き続きよろしくお願いします。
ぜひ、よろしくお願いします。ADDIXさんも企業として拡大される中で、様々な引き出しをお持ちだと感じます。それらをご紹介いただきながら、カテエネを電気・ガス料金を見るオウンドメディアから、総合的な生活インフラサイトへと成長させていきたいと思っています。

※本記事はBiz/Zineで公開された記事(https://bizzine.jp/article/detail/9118)の転載となります。