インタビュー

第一生命が取り組む資産形成・承継領域の新規事業とは──ADDIXと進めたCX起点の事業開発

第一生命保険株式会社

第一生命が取り組む資産形成・承継領域の新規事業とは──ADDIXと進めたCX起点の事業開発

2025.03.14

2023年1月、第一生命保険株式会社は、デジタルプラットフォームサービス「資産形成プラス」をリリースしました。同サービスは、人生100年時代を迎え、一人ひとりの価値観が多様化する今、第一生命が資産形成・承継領域においても価値提供を拡大することを目指すものです。そして、同サービスの共創パートナーとして、構想策定から開発、管理・更新まで、エンドツーエンドで支援しているのが株式会社ADDIX。第一生命が抱く明確なビジョンに対し、ADDIXは、いかに新たなサービスとして形成できるか、ユーザーにとって継続的に利用していただくための体験価値を徹底的に考え伴走しています。今回は、同プロジェクトについて、両社による対談をお伝えします。

PROJECT

資産形成プラス

資産形成・承継をサポートするデジタルプラットフォームサービス

2023年にスタートした、第一生命保険株式会社が「資産形成・承継」領域において独自コンテンツを提供する新デジタルプラットフォームサービス。「資産寿命シミュレーション」「ネットバンクサービス」「投資・貯蓄性商品紹介」の3つのコンテンツを展開。

世の中の変化と事業領域の拡大から生まれた新規事業

若松康平氏(以下、若松)

私は1995年に第一生命に入社して以来、営業部門を中心に全国を転々としながら営業を統括する役割を多く担ってきました。今年、資産形成・承継事業部の部長となり、今回ADDIXさんに共創パートナーとなっていただいた、デジタルプラットフォームサービス「資産形成プラス」も担当しています。

1902年創業の第一生命は「お客さま第一主義」の経営理念のもと、生命保険事業に取り組んできました。ただ、すべての人々が安心に満ち、豊かで健康な人生を送れることに貢献し続けられる存在であろうとしたときに「保障」を磨き続けるだけでなく、事業領域を「資産形成・承継」、「健康・医療」、人と人、人と地域や社会との新しい「つながり・絆」へと拡大し、従来に増して「一生涯のパートナー」としてお客さまに寄り添っていくことを目指すようになりました。資産形成・承継領域において独自のコンテンツを提供している「資産形成プラス」もその一環です。

久保倉淳氏(以下、久保倉)

あらためて、第一生命さんとADDIXがどのようにサービス開発を行ってきたかをお話ししたいと思います。今回のプロジェクトで、ADDIXは初期の構想段階から参画しています。資産形成・承継の領域において第一生命さんが提供すべきサービスとはどのようなものか。そのサービスは誰のためのものか。そして、そのサービスを利用し始めてもらうだけではなく、利用し続けてもらうために必要な顧客体験はどういったものか。これらを取りまとめるサービス全体の「to be」像を描く役割を担当しました。

杉岡真紀氏(以下、杉岡)

私は構想策定で決定したコンセプトや顧客体験などの「to be」像を分解、具現化して実際のサービスに落とし込む過程で、デザイナーやエンジニアとの連携やディレクションを担いました。

久保倉

若松様から事業領域を拡大されているというお話がありましたが、第一生命さんでは「健康第一」や「QOLism」というお客さまの健康づくりを応援するアプリなど、金融業界の中でも早い段階でデジタルに取り組まれてきた印象があります。

若松

たしかに、第一生命は新しい取り組みへ積極的に挑戦する企業だと思います。ただ挑戦するだけでなく持続可能な事業にしていくためには、収益化の面もしっかり見ていく必要があると考えています。「資産形成プラス」もお客さまとデジタルでどれだけ接点が持てるか、それをいつ・どのように収益につなげるかというサービスモデルの構想策定から始まりました。

2023年1月にローンチした「資産形成プラス」には3つの軸があります。1つ目が、お客さま自身に合わせたシミュレーションで必要な資産形成がわかる「資産寿命シミュレーション」。2つ目が、住信SBIネット銀行様・楽天銀行様と連携した、お客さまの日常生活をよりお得に便利にする「ネットバンクサービス」。3つ目が、資産形成・承継に役立つコンテンツとしての「投資・貯蓄性商品紹介」です。

「資産形成プラス」での顧客体験概略図

若松

新規事業としてこのサービスを始めた背景には、資産形成・承継に対する世の中の関心が高まっていることがあります。iDeCoや積立NISAが登場し、資産形成に関心を寄せる年齢層も下がっており、資産形成といえば財形や貯蓄が定番だった時代から、今は投資へとお客さまのマインドがチェンジしています。

このような変化がある中、生命保険会社が商品をご案内する場面で生命保険の話だけをすると、お客さまは違和感を抱いてしまうのではないかという懸念が出てきました。実際、私自身営業をする中で、生命保険での保障と老後を見据えた資産形成・承継の両方に対してご提案ができるとお客さまの満足度が高まるのではないかと感じていました。

そこで、第一生命としても幅広い世代に向けたサービスの検討を開始しました。幅広い世代のお客さまと接点を持ちたいと考えたとき、従来の対面チャネルに加えてデジタル接点の強化にも取り組まなければなりません。そこで、デジタル領域での事業開発のパートナーに選んだのがADDIXさんでした。

第一生命保険株式会社 資産形成・承継事業部 部長 若松康平氏

デジタル領域の深い知見と実績がパートナーの決め手に

若松

「資産形成プラス」プロジェクトのパートナー企業を選ぶ上で、第一生命が資産形成・承継の領域に本腰を入れていていることを理解してほしいと考えていました。先ほどお話をした「資産形成プラス」の3軸の中でも、特に「資産寿命シミュレーション」と「ネットバンクサービス」が実際に機能するためのコンサルティングを求めていました。第一生命として初めてデジタル領域を通じた資産形成・承継に関する取り組みを行っていくということで、どのような導線や訴求であればお客さまに認知してもらうことができ、活用していただけるのか。デジタル領域のプロの目線で提案してくれる存在が必要だったのです。

久保倉

そのご要望を受けた際、これまで培ってきた知見、実行力を活かした「デジタルプラットフォーム構築」と「ローンチにおける伴走支援」の2点が、我々ADDIXに求められる役割と認識しました。

そこで、ADDIXが事業創造支援からサービス・事業のグロース支援まで、企業課題に応じた一気通貫でのご支援を担ってきた経験を事例を交えてご紹介しました。さらに、本プロジェクトの取り組み全体図を整理。デジタルプラットフォームを構築する上での現状の課題や今後出てくる課題と取り組むべきポイントを明確化し、進行スケジュール案を提案いたしました。

株式会社ADDIX ソリューション事業部 ビジネスプロデュースユニット 上級執行役員 久保倉淳氏

若松

ご提案内容を伺い、第一生命のニーズとADDIXさんが提供してくださる価値が合致したと感じたため、ADDIXさんをパートナーに選びました。とりわけ中部電力さんとのお取り組みで、Web上でのポイントサービスを活用したサービス構築を既に手がけられていたことが大きな要因となりました[1]

電力業界と同様に、保険業界も法規制が厳しい業界です。お客さまに直接的に利益を提供する仕組みづくりが難しい中で、ネットバンクサービスはお客さまに便益を還元できる重要な施策と捉えています。大手生命保険会社として初の「ネットバンクサービス」を実現するためには、今までやったことがない外部企業との連携が不可欠です。外部企業との連携で実現されたサービスの開発実績があるADDIXさんと組むことは、第一生命にとってメリットが大きいと感じました。

久保倉

ユーザーの目に触れるところだけではなく、会員情報をいかにつなぎ込むかというバックエンドの部分も含めてご支援させていただくことになりました。

進め方は、定例会議を議論の場として共に進めてまいりました。例えば「資産形成プラス」という名称も、まず会議に我々の案をお出しします。そしてその案をもとに、資産形成・承継が第一生命さんの祖業である生命保険事業にも“プラス”に働くこと、資産形成・承継が心や健康、暮らしにも“プラス”に働き、お客さまの人生を豊かなものへ変えていく意味を込めること、そういったことをディスカッションしながら名称も決めてまいりました。

プロジェクトを進める上で意識したのは、ADDIXは顧客体験、事業者である第一生命さんはビジネスの在り方と片方だけの価値観に偏らないようにすることです。また議論を尽くすべきテーマについては、ワークショップを開催してお互いの考えを深掘りしました。

「第一生命の資産形成・承継領域におけるデジタルプラットフォームの在り方」まで考え抜いたコンセプト策定

久保倉

今回のプロジェクトは、サービス構想策定から開発、管理・更新まで各フェーズにわけながら、エンドツーエンドでご支援させていただきました。最初の構想策定段階では、外部環境調査や競合調査などから狙うべきメインターゲットを設定しています。初期ターゲットを「資産形成初心者」とし、そのペルソナとカスタマージャーニーを描いて提供すべき顧客体験を検討しました。

その上で、資産形成のためには行動変容も大事であるという考え方に基づき、プラットフォームサービスとしてのコンセプトを『今を変える、未来を変える』という背中を押すメッセージに設定しました。これらの構想を分解し、具現化して実際のサイト上やサービスへ落とし込むことを担当したのが杉岡です。

市場調査及び分析、ターゲット像及びカスタマージャーニーの策定の一例

杉岡

サービスを象徴する名称やロゴ、キャラクターの開発から、ユーザーが接するサイトのUIやサイトへの導線・宣伝用の制作物などに携わらせていただきました。そのプロセスの中で、ADDIXのデザイナーやエンジニアへのディレクションをする際も、徹底的に顧客の目線でいるように伝え続けました。統一感のあるクリエイティブや構想策定に沿った適切な表現や導線になっているかを意識する上で、常に立ち返ることができる明確なコンセプトがあったからこそ、スムーズに進めることができました。

たとえば、キャラクター開発においては様々なアイデアが出た中で『今を変える、未来を変える』に因んであえてシンプルに、カエルのキャラクターを採用しました。これは初心者に資産形成を難しいと感じせないように親しみやすさを印象付け、わからないことに対する自らの代弁者として機能させることを意図しています。

ユーザーの目に触れるWebサイトは、視覚的にスムーズに次のアクションを促せる、丁寧で世代を問わないUI設計を心がけました。専門用語が並んで難しそうと思われがちな資産形成にまつわるコンテンツも、どの世代にもシンプルに隔たりなく理解していただける工夫を施しながら開発を進めました。

こういった目に見える要素と同時に、バックエンドの顧客情報の活用やユーザーの使い勝手を考慮した共通基盤のようなデータマネジメントの構築部分も担いました。これによって「資産形成プラス」は、UIはもちろんUXもセットで担保できたのではないかと感じています。

株式会社ADDIX ソリューション事業部 ビジネスプロデュースユニット 杉岡真紀氏

若松

今のように世の中が大きく変わっていく時代には、同じサービスを提供し続けるだけではお客さまのニーズを満たすことはできません。

そのため『今を変える、未来を変える』は、第一生命で長く働いてきた私自身の心にも刺さるリアリティのあるものですし、微笑ましいカエルのキャラクターとのバランスにも好感を抱いています。ADDIXさんが第一生命としてのデジタルプラットフォームの在り方を、真摯に考え抜いてくれた印象があります。

「資産形成プラス」Webサイト・キャラクターデザイン

互いの知見を補完しあうことでサービスは作り上げられていく

久保倉

「資産形成プラス」を2023年1月にサービスインした後はADDIXとして、サイトの更新・管理、そして機能やデザインの改修などをご支援しています。ここまでの私たちとの協働について、どのように評価されているかお聞かせいただけますでしょうか。

若松

デジタル分野の課題解決にとても助けられています。現在、第一生命としてもこの領域に力を入れていますが、まだノウハウが限定的な部分もあります。そのような中で実績を持つADDIXさんからアイデアをもらったり、アイデアの具体像を示してもらったりしたからこそ、社内も触発されて自分たちのやるべきことが明確になったのがありがたかったです。

久保倉

今回私たちの役割は、第一生命さんが事業オーナーとして持たれている課題を顧客視点で整理し、具体像として可視化することだったと思います。ただ、その具体像をお互いの共通認識として協議しながら、より良いサービスの在り方を一緒に構築させていただいたようにも感じるため、明確な役割分担というよりはパートナーとして一緒に作り上げていった感覚も僭越ながらあります。

若松

おっしゃる通りですね。ADDIXさんがデジタルユーザー目線の知見を補完してくれました。また、UIやUX、キャラクターなどの具体的な部分には、社内の人間だと第三者視点では見られないものです。そこを杉岡さんにフラットな視点で精査してもらえたところも、私たちの期待に応えていただいた点ですね。

杉岡

ありがとうございます。逆もまた然りで、第一生命さんは対面チャネルでのお客さまに対する知見が豊富です。クリエイティブディレクションをする際は徹底的なユーザー目線を意識したと申し上げましたが、第一生命さんからもリアルなお客さま目線についての視座をいただくことで、コピーやご案内文を解像度高く調整することができました。それによって今までになかったような優れた表現も生まれ、ADDIXにとっても気づきのあるプロジェクトになりました。

若松

パートナー泣かせの部分もあったと思います。保険業界や金融機関に求められるセキュリティやデータの連携・管理のレベルは非常に高いのですが、ADDIXさんはいつも柔軟かつスピード感をもって対応してくださいました。

久保倉

今回のプロジェクトでは、証券会社の富裕層向けプラットフォームを開発していたチームがほぼそのままの体制でジョインできたため、金融機関に関する知見がありました。また大手流通のデジタルプラットフォームの開発に携わったメンバーもおり、大規模なプロジェクトの実績もありました。ただ今回は第一生命さんの推進力のもと、ADDIXを含めた各領域の専門チームから成る体制づくりが優れていたと感じます。私たちは主にデジタル分野の課題解決に専心することができました。

久保倉

最後に、プロジェクトの今後の展望とADDIXにご期待していただいていることをお聞かせください。

若松

あらためて現代は、お客さまの資産形成・承継ニーズが高まっていると感じます。その中で生命保険だけを提案することは顧客満足度を十分に満たせない可能性もあります。

ですから、生命保険会社としてお客さまの資産形成・承継についてのニーズも満たすことが必要で、加えてデジタルと対面の両方のアプローチで取り組んでいかなければなりません。お客さまの利便性に応じて、デジタルと対面を相互に行き来できるような仕組み、プロダクトやソリューション提供についての総合的なコンサルティングを引き続きご支援いただきたいです。

生命保険も資産形成・承継事業も「長期的な目線でお客さまの資産を守っていく」という点が共通しています。その意味で「資産形成プラス」も長期的な展望で考えていますが、サービスを開始して半年という短い期間においてもネットバンクサービスの口座開設数やページへの来訪者数なども堅調に推移するなどおかげさまでお客さまにご好評いただいております。

今後もライフプランに役立つ第一生命ならではのコンテンツは随時発信していきたいですし、その中でより多くのユーザーに長く滞在してもらう施策についてADDIXさんにアドバイスをいただきながら、プロジェクトの拡充を続けたいと思います。


※本記事はBiz/Zineで公開された記事(https://bizzine.jp/article/detail/9388)の転載となります。

PROJECT MEMBER

  • 上級執行役員

    久保倉 淳

    新卒で広告代理店へ入社し、キャリアの第一歩を踏み出す。大手企業のマーケティング戦略や企業CI、公共空間の環境デザインなどを担当し、業界での地位を確立する。2017年には次なる挑戦の場としてADDIXに入社。ここではデジタルマーケティングの最前線で活躍し、革新的なプロジェクトを多数手掛ける。2018年から2019年にかけてJAXAの新事業促進部に出向し、共創型研究開発プログラム立ち上げのための広報活動に貢献。2019年にはANAホールディングスのAVATAR準備室に出向し、スマホやPCで遠隔地にあるロボットを操作するアバター事業「ANA AVATAR」の立ち上げに携わり、次世代のビジネスモデルを構築。そして、2024年から上級執行役員CSOに就く。

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